私達は創業以来、農と食を通じて、いのちの在り方について考えてきました。
近代から今に続く、時に過度な経済・効率優位の世相の中で、自然の循環を感じながら食べ物を作り、食べるという営みが、人間にとって本当に大切な何かに成りうるのではないか…。
当社の代表的な商品であるパスチャライズ牛乳は、この問題意識に対する1つの答えであり、開発から時が過ぎた今でも、自信をもって販売しています。
パスチャライズ牛乳とは、65℃で30分かけて殺菌される“低温保持殺菌乳”のこと。牛乳本来の自然な風味と性質、栄養に仕上がります。
私たちが農作物を作るかたわら酪農を始めたのは、昭和30年代。日本が農業型の国から都市型国家ヘと変わろうとするなかで、「自立した農業」をと考えたからでした。養蚕、炭焼きに代わる新しい産業を興そうと、牛乳の原料生産から加工処理までを手がけ、「木次牛乳」の名で販売を始めました。 国中が近代化へ向けて駆け足をするなかで、農薬や化学肥料に気持ちが傾いた時代もありました。
牛も食べ物によって心から体まで元気になり、安定した乳質・乳量が確保できることがわかり、牛乳が高熱処理で大量生産される日本の現状に、疑問を感じたのもそのころです。昔から牛乳を飲んできたヨーロッパでは、パスチャライズ牛乳が主流です。
フランスの細菌学者パスツールが発明した殺菌法によるもので、牛乳中の栄養成分や風味を損なうことなく、有害な細菌を死滅させることができます。
本格的なパスチャライズ牛乳開発に取り組みを始めたのは、昭和50年です。いろいろな条件で熱処理した牛乳を発酵させ、データを取りながら3年間、仲間たちと毎日食べ続けて安全性を確かめました。同時に酪農家には飼料から乳搾りの仕方、牛舎の管理法まで徹底し、細菌数を細かく調べて乳質向上を求めました。殺菌温度を65℃30分にすればいいだけではなく、原乳の乳質が良くないといけないことがわかり、牛舎を清潔にして、搾乳前に牛の乳房を蒸しタオルで2度拭きするなど当時はまだ出来ていなかった衛生管理を徹底し、餌の配合でまで気を配りました。
こうして53年、パスチャライズ牛乳を流通化。本物の食べ物を届けたいとの生産者の思いが、日本で初めてのパスチャライズ牛乳として実を結び、初めて65℃30分間殺菌を行うことができました。
その後も創業者自らが1年間飲み続け、ようやく1962年にパスチャライズ牛乳が発売しました。
パスチャライズ牛乳には、細菌数の少ない生乳が必要です。私たちは原乳の品質を高めるために、飼料はもとより飼育方法や飼育規模、さらには酪農をとりまく環境にも配慮しています。
大自然の仕組みのなかで生産に携わるかぎり、工業製品のように大量生産はできません。あくまでも小規模に、自然のものをできるだけ自然に近い状態で、地域の人々に提供する。それを理想にしています。大自然のサイクルに基づいた製品作りをしているので、少量ずつしか生産できません。いのちある食材として健全であることを、何よりも重視したいと考えます。
「食べるということ」は、地球上の生物のいのちをいただくこと。
これは創業者佐藤忠吉の口ぐせです。
地球上には様々ないのちの形があり、またそこから作られた食品があります。
当社の製品が、皆様のいのちを育む一助となれましたら幸いです。